香川大学瀬戸内圏研究センターの中國正寿特命助教らの研究グループは、これまで十分に行われていなかった高松沖の潮目(収束域)と一般海域(非収束域もしくは非潮目)におけるマイクロプラスチック(MP)密度の比較?定量化に成功しました。その結果、潮目のMP密度は一般海域と比べて40倍から300倍程度高く、最大で18.8個/m?に達することがわかりました。この値は、MPのホットスポットとされる東京湾と同等であり、潮目が局所的なMPホットスポットになり得ることを示しています。
 潮目と一般海域で最も多く見られたMPは発泡スチロールで、その密度は夏場に高くなる傾向がありました。潮目には流れ藻が集まり、そこには多くの様々な稚魚が2ヶ月から4ヶ月の間、隠れ棲むように生活しています。このように潮目では、生物量が豊富でMPも多く存在するため、今後の沿岸域MPモニタリングでは潮目に着目する必要があると考えられます。

■発表のポイント
? これまで潮目には非潮目の海域に比べて多くの浮遊マイクロプラスチック(MP)が集積する可能性が示唆されていましたが、その定量的な比較や評価は十分に行われていませんでした。
? 香川大学の研究グループは高松沖の潮目および潮目でない海域で浮遊MPを採取し、その量を比較しました。その結果、潮目のMP量は非潮目に比べて最大で300倍高いことが明らかになりました。
? 高松沖の一般的な海域(非潮目)は他の海域に比べMP量が少ないですが、潮目における量はMPのホットスポットとして知られている東京湾のMP量に匹敵していました。
? 潮目は流れ藻を集積させる役割も担っており、これが稚魚のゆりかごとして機能しています。しかし、潮目におけるMPの存在が稚魚にどのような影響を与えるかはわかっておらず、今後、調査が必要です。
? 高松沖におけるMPの多くは発泡スチロールであり、それらの排出源を制御することで、政策的に対応することは可能かもしれません。

本成果は2024年7月15日にエルゼビア社発行の国際学術雑誌「Marine Pollution Bulletin」のオンライン版で公開されました。

■発表内容
背 景
 海洋表層では、潮の流れや地形的な特徴によって物質が集積する潮目が形成されていることが知られています。この潮目に集まるアマモやガラモなどの藻は、流れ藻と呼ばれ、稚魚の隠れ家としての役割を果たしています(図1)。しかし、潮目では藻の集積と同時にゴミも集まるため、多くのマイクロプラスチック(MP)が蓄積する可能性がありました。しかしながら、沿岸域の潮目におけるMPの直接的な調査はこれまで行われておらず、潮目と非潮目の間でのMP密度の差異や、潮目に集まるMPの特徴がどのようなものかは明らかではありませんでした。そこで本研究では、高松沖の潮目と非潮目でMP調査を行い、潮目におけるMP密度の特徴を把握することを目指しました。

手 法
 香川大学所属の調査船カラヌスⅢを使用し、潮目と非潮目の区域でMPのサンプリングを行いました(図2)。この調査では、ニューストンネットを用いて表層水中のMPを採取し、その量、種類、色、形状を詳細に分析しています。得られたデータを基に、潮目と非潮目のMPの量と特徴の違いを比較し、潮目におけるMPの評価を実施しました。なお、本研究では、1 mmから5 mmのMPを分析対象としています。

結 果
 潮目におけるMP密度は非潮目と比較して著しく高く、40倍から300倍にも及びました。非潮目のMP密度(約0.04 個/m3)は、他のMP密度が低いことで知られる世界の海域(例えば、バルト海[0.05 個/m3])と比べても、同等もしくはより低い密度に収まっていたものの、潮目のMP量(0.19~18.8 個/m3)は、MPのホットスポットとして知られている東京湾(2.6 ± 4.5 個/m3)に匹敵することが明らかになりました(図3)。過去の研究で、高松沖では、メバルやソイなどの稚魚が2?4ヶ月間潮目の流れ藻の中に身を潜めて生活していることが明らかにされています。潮目の物質集積能力と生物多様性を考慮すると、一般海域のみならず、海洋生物の生息拠点である潮目の調査が、より効果的なMPの実態把握につながる可能性があります。今のところ、潮目の高MPが潮目の稚魚に与える影響は、明らかとされてはいませんが、今後、高MP濃度の稚魚への影響を含め潮目の調査が推奨されます。
 潮目と非潮目でMPの量は大きく異なりますが、その色やプラスチックの種類は非常に似ていました。これは、潮目のMPがその海域のMPの集積によって形成されていることを示しています。その海域の特に、発泡スチロールが多く見られることから、これらの排出源を減らすことで、高松沖の浮遊MPの削減が期待できるかもしれません。潮目は海域の浮遊物が自然に集まる場所であり、人工物質を含む海洋環境の状態を効率的に評価できる重要な観測ポイントです。この特性を活かすことで、その海域の浮遊物の状況を効果的に把握し、環境保護対策の立案に貢献できる可能性があります。

論文情報
掲載誌:Marine Pollution Bulletin 2024年7月15日公開
論文タイトル:Convergence zones of coastal waters as hotspots for floating microplastic accumulation
著者:Masatoshi Nakakuni, Miharu Nishida, Ryosuke Nishibata, Koji Kishimoto, Hitomi Yamaguchi, Kazuhiko Ichimi, Masahide Ishizuka, Yoshihiro Suenaga, Kuninao Tada
URL:https://doi.org/10.1016/j.marpolbul.2024.116691

図1.jpg図1? 高松沖で観察される潮目(流れ藻)の様子
潮目で形成される流れ藻は、稚魚が身を潜める好適な生息場所となっています。一方で、これらの潮目には、様々なごみも集積しており、今回それらの中には発泡スチロール片や想像以上に高濃度のマイクロプラスチック(MP)も含まれることが明らかになりました。

図2.jpg図2? 高松沖で実施されたマイクロプラスチックの調査海域

図3.jpg図3? 潮目と非潮目におけるマイクロプラスチック量の比較
高松沖の一般海域(非潮目)におけるMP量は、先行研究の播磨灘の値と同等で、東京湾よりも少ない値を示しました。一方で、潮目のMPは、一般海域の最大で300倍もの差があり、その量は、東京湾のMP量に匹敵していました。東京湾と播磨灘のデータは、他の研究からの引用です(Michida et al., 2019; Naigai Map Production inc., 2019; Sanyo Tecno Marine inc., 2015, 2020; Universe Co. Ltd., 2016)。

図4.jpg図4? 高松沖におけるマイクロプラスチック採取の様子と得られたマイクロプラスチック
マイクロプラスチックの採取は、ニューストンネットと呼ばれる目合い330 ?mの網を使い、表層海水をろ過するように行いました(左上?左下の写真)。ネットには、白色の球状の浮遊物が多く見られ(右上の写真)、これらはいずれも発泡スチロールです。そのほかには、赤や緑、青といったプラスチック片が高松沖から採取されています(右下の写真)。MPの量は大きく異なりましたが、その組成は潮目と非潮目の両方で類似していました。これは、潮目がその海域の集積物によって構成されていることを示唆しています。

■用語の説明
[ マイクロプラスチック ]
5 mm以下のプラスチックの総称。もともと5 mm以下で製造されたマイクロプラスチックを1次マイクロプラスチック、破砕などによって5 mm以下となったものを2次マイクロプラスチックと呼ぶ。本研究で見出されたマイクロプラスチックは、すべて2次マイクロプラスチックであった。

[ 潮目 ]
海面に現れる収束帯。同じ水塊内で発生する海面収束帯は「筋目」、異なった水塊の境界で発生する海面収束帯は「前線」と呼ばれている。本研究では、潮目の発生機構について詳細な調査を実施していないため、それらを包括する「潮目」として定義した。本文中では、「convergence zones」と表現している。英語では「marine windrows」とも表現される。

[ 流れ藻 ]
定着生活していた藻場から離れて海面を漂流している海藻(ガラモなど)や海草(アマモなど)。高松沖の流れ藻には、メバル、ソイ、カワハギなどの稚魚が隠れるように生息している。

[ アマモ ]
日本の沿岸域に広く分布する海草の一種。学名は、Zostera marina。近年、ブルーカーボン(海の生物の作用により取り込まれる炭素)の研究分野で注目されている。

[ ガラモ ]
褐藻類のホンダワラ属の総称。高松沖では、アカモク、タマハハキモク、ノコギリモクなどが見られる。海中で立ち上がるために空気の入った気胞を持つことが特徴。

[ ニューストンネット ]
海洋表層に生息する生物や浮遊物を採集するために設計された特殊な網。長方形の開口部を持つ細長い円錐形の構造で、開口部の上端が水面上に出るように設計されている。近年では海洋表層のマイクロプラスチック採集に広く利用されている。網の目合いは研究目的に応じて選択され、マイクロプラスチック研究では通常330 μmが使用される。

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お問い合わせ先
【研究に関すること】
 香川大学瀬戸内圏研究センター 特命助教 中國 正寿
 E-mail:nakakuni.masatoshi@kagawa-u.ac.jp

【報道に関すること】
 香川大学 研究協力課 瀬戸内圏研究センター担当 森岡 希帆
 TEL:087-832-1317 FAX:087-832-1317
 E-mail:kenkyust-h@kagawa-u.ac.jp